2024年12月15日(日)に東京・ユナイテッドシネマ豊洲にて、『Ubel Blatt~ユーベルブラット~』(以下、『ユーベルブラット』)先行上映会(ジャパンプレミア)が開催。アニメ第1話、第2話の先行上映に加え、キャスト/スタッフによるトークショーが行なわれた。
本作は、月刊『ビックガンガン』(スクウェア・エニックス刊)に掲載された同名コミックス(原作:塩野干支郎次)のアニメ化作品。栄誉を我が物にしようとした“七英雄”に裏切られ、妖精の血肉を食らいながらも生き延びた剣士・ケインツェルの復讐の旅を描く骨太なダークファンタジーだ。
この日、ステージに登壇したのは、ケインツェル役の広瀬裕也さん、ピーピ役の立花日菜さん、アルテア役の上田瞳さん、そして同作の音響監督を担当した藤本たかひろさんの4名。音響監督の藤本さんは25年近いキャリアを持つ声優としてもおなじみで、上田さんとは同じ事務所(青二プロダクション)の先輩&後輩という間柄。また、広瀬さんと立花さんが同じ事務所(アーツビジョン)の先輩&後輩ということもあってか、トークショーの冒頭からアットホームな空気感が漂っていた。
まずは改めてあらすじの紹介。原作コミックは2004年から連載が始まった全24巻(第0巻も含む)の作品ということで、広瀬さんからもダークファンタジーの走りのような作品という説明が。「海外のコメントが9割を占めていて、海外でけっこう受けているのかなと……」と国外での人気の高さにも驚いていたそう。
続いて、キャラクターに関するトーク。一番手として主人公・ケインツェルの姿がスクリーンに映し出されると、女性陣からは黄色い声が巻き起こった。これまでケインツェルのような役を演じる機会がほとんどなかったと語る広瀬さんだが、そこにものすごい勢いで食いついたのが藤本さん。
自分を殺した相手への復讐心に燃えるという現代人からしたら想像もできないシチュエーションを演じることになるため、「これ、やれる人いるのかよ……」と思うぐらい難しい役と感じたものの、第1話冒頭の広瀬さんの叫びを聞いた瞬間に「(そのひと言で)勝ったと思った!」と大絶賛。「収録現場ではひとりだけ褒めるわけにはいかなかったけど、ものすごく頼りになるなと感じた!」、「しかも、対峙する相手が(グレンを演じる)井上和彦さんじゃないですか。これは絶対に行けると感じました!」と褒める言葉が止まらない。これには広瀬さんも少し照れくさそうな表情を浮かべつつ、「今後はちょくちょく言ってください!」とおねだりで会場の笑いを誘っていた。
次にフォーカスされたのは立花さん演じる亜人種ミルエル・ミラエル族の少女・ピーピ。視聴者目線を保ちつつ作品の空気を明るくする彼女の存在と、そこに魂を込める立花さんは本作においても重要な役割を果たしているようだ。藤本さんは「ほぼ直しがいりません。ピーピは好きにやらせておけばいい!」とリテイクをほとんど出さなかったことを明かすが、立花さんは「役者的にはあんまり音響監督に触れられないと、それはそれでちょっと不安になるんですけど……見捨てられちゃったのかと思って……」とぼやき、会場では笑いが巻き起こっていた。
なお、第1話のアフレコで広瀬さんは作品のシリアスな空気に合わせて静かにしていたそうだが、立花さんが「どうしたんですか~? 今日暗いですよね? 縮こまっているんですか~?」とのんきに話しかけたそう。「いつも“あっ、おはよッ!”って感じなのに全然違うから」と“普段の雑な広瀬さん”をマネする立花さんに「嘘言わないで!」と広瀬さんも反論。上田さんは収録外でのふたりの関係性が兄妹のように見えると話していたが、まさにそんな関係性がやりとりからもうかがえるひと幕だった。
そして、話題は密航屋の女主人・アルテアにシフトする。上田さんは彼女の人となりについて「大人のお姉さんですけど、けっこう少女というか乙女なんですよ」とコメントし、見た目と雰囲気のみではなくアルテアならではの少女性のニュアンスをお芝居ににじませたことを明かす。セクシーそうに見えてじつはそうじゃないという役柄を演じる機会が多い上田さんにとってはちょうどよくやりやすいそう。
役の魅力を語りつつもどこか自信なさげな上田さんだが、そこは藤本さんがすかさずフォロー。「駆け出しの頃からずっと知っているんですけど、クソマジメなんですよ! 本当に熱い子で……でも、心の中には女の子がいて。“怖いよ~怖いよ~”という(内面では気弱な)ところがあったりしつつもやるときはバーンとできちゃう。だからアルテアにピッタリなんですよ!」とふたりが重なる部分が多いことを熱弁し、会場からは盛大な拍手が巻き起こる。上田さんもどこか照れくさそうにしつつ「第2話以降の“いい女感”もお楽しみに」と頭を下げていた。
アニメ第3話以降から登場するキャラクターも魅力的な人物ばかりということで、まず話題に上がったのがアト。演じている華成結さんにとっては本作がデビュー作ということで「声優事務所に所属して2日目ぐらいで演じていたのかも」(広瀬)という驚きの逸話も飛び出す。デビューしたてのフレッシュな華成さんの存在は多数のオーディションテープの中からすぐに藤本さんの目に留まったようで「この人が入ったらベテランたちの尻にも火がついて本気の芝居をしだすと思った」と収録現場の活性化を予期していたという。その狙いは見事に的中したそうで、「アトがしゃべるとみんな背筋が伸びる」(立花)と3人も大いに刺激を受けていたようだ。
そして、増田俊樹さん演じるヴィドのキャラクター造型については、「陰みたいなものがなければいけない」、「包容力みたいなものも出せればと」と藤本さんもこだわったそう。広瀬さんも「導いてくれるところは導いてくれる。筋の通ったキャラクター」とその魅力に触れていた。
トークショーも佳境に差し掛かったところで、第2弾キービジュアルも解禁。以下の追加キャラクターとキャストが発表された。
- ゲランペン(声:松田健一郎さん)
- ファーゴ(声:鳥海浩輔さん)
- ラングザッツ(声:鈴木崚汰さん)
- グレン(声:井上和彦さん)
- シュテムヴェレヒ(声:楠大典さん)
- バレスター(声:内田直哉さん)
「シブくね? あと、シブいところに(鈴木)崚汰という若い奴がいる!」と広瀬さんが絶妙なバランスに触れると会場からは笑いが。「伊達に25年現場に出ていないので! いっしょに仕事をしたい人にとにかくお願いした結果、こうなりました」という藤本さんのキャスティングの手腕にも拍手が巻き起こった。追加キャラクターのなかでも異彩を放つゲランペンについてキャスト陣も語りたかったようだが、ネタバレになるとのことで実現せず……。ただ、語りたくなるほどの存在感ということでオンエアへの期待感を煽っていた。
また、主題歌についての話題も。立花さんが担当しているエンディング主題歌「Stella」は、アーティストとしての彼女にとっては初めてとなるバラード調の楽曲で、さまざまなチャレンジが詰まっているそう。歌詞の中には、月や星といったフレーズも散りばめられていて、復讐者として猛威を振るっているけれども心根のやさしいケインツェルを暗示するような箇所も多いそうで、「三日月がナイフみたいに尖っているって誰かが言ったけど、あんなにやさしい切っ先は見たことがない」という歌詞がとくにお気に入りだと立花さんも語っていた。この見事な表現に広瀬さんも「すごいね、その歌詞……」とビックリ。
主題歌はもちろん、劇伴音楽にもこだわっているという『ユーベルブラット』。たとえば、第1話のアバンタイトルのシーンの音だけでも藤本さんは3~4通りのプランを持っていったそうで、「いっそう音楽をやめて完全に雨音だけにしてみんなの息の音だけという生々しさでいこうか、でも魔法のじゅうたんに乗るように音楽でこの世界に入ってきてもほしいし……」といろいろ悩んだとコメント。作中でもキャラクターの成長や覚悟、後悔、決意を際立たせるセリフがたくさん登場するため、そこに音楽のピークを持っていくのかこだわり抜いたそうだ。ときには作業を終えたAパートを一からやり直すようなこともあるという逸話に、第3話以降の音楽がどうなっているのか気になった来場者も多かったことだろう。
先行上映の直後ということもあって、お芝居や音楽に関する骨太なトークがてんこ盛りだったこの日のトークショーもいよいよ終幕が近づく。
藤本「本当にみんな一生懸命にやりました! そして、一生懸命にやったことを蹴散らしてやり直させました!(笑) どうしても越えなければいけないハードルがあると思わせてくれる作品なので越えるまでやりました。形になったと思います!」
上田「テスト収録を一回やっただけでエアコンを入れなきゃいけないぐらい、みんな熱量をもって演じていました。重いんですけど、その重さに自分たちも打ち勝つぐらい全身でお芝居しています」
立花「切磋琢磨という言葉を若手の私が言うのが正しいかはわかりませんが、いろいろな人たちの感情のぶつかり合いがすごくて。心もお芝居も成長できたなって思える、すごく幸せな現場でした。なによりみんな仲がよくて!(笑) 『ユーベルブラット』に関われてうれしいです」
広瀬「本当に熱量の高い現場です! ケインツェルなんかひとセリフ、ひとセリフ、何回もやり直しました! それぐらい込めないとケインツェルの復讐には合わないお芝居になってしまうので、何度も何度もぶつからせていただいたので、いい感じにオンエアに乗っていると信じて楽しみにしています」
それぞれがものすごい熱量で収録に向き合っていたことが、締めのコメントにまでたっぷりとにじみでていたこの日のトークショー。アニメ『ユーベルブラット』は、いよいよ2025年1月10日より放送開始となる。スタッフ/キャストの想いがこれでもかと詰め込まれた復讐劇を体感したい方は、ぜひともチェックしてみてほしい。
文章:原 常樹